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水戸地方裁判所 昭和63年(ワ)264号 判決 1990年6月29日

原告

水戸射爆場跡地の火力発電所問題を考える会

右代表者代表幹事

宮田茂博

右訴訟代理人弁護士

戸張順平

谷萩陽一

佐藤大志

被告

勝田市

右代表者市長

清水曻

右訴訟代理人弁護士

星野恒司

右指定代理人

大森征

菊池幸雄

主文

一  被告は原告に対し、三一万三四四〇円及びこれに対する昭和六三年七月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、一六一万五一九〇円及びこれに対する昭和六三年七月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  当事者

(一) 原告は「水戸射爆場跡地に建設を予定される石炭火力発電所問題を追求し、周辺の自然環境と住民の生活環境を守り、住みよい町づくりを進めていくこと」を目的として昭和五五年二月三日に設立されたいわゆる権利能力なき社団である。

(二) 被告は勝田市一中地区コミュニティセンター(以下「本件センター」という。)を設置し、その使用許可を含む管理を被告の機関である勝田市教育委員会に行わせているところ、同委員会は右権限を教育委員会教育長に対する事務委任規則により勝田市教育長に、さらに、同教育長は教育長の権限に属する事務の一部を学校その他の教育機関の長に委任する規程により、右権限を本件センター館長にそれぞれ委任している。

2  本件センターの使用許可取消しと名誉毀損発言

(一) 本件センターの使用許可取消し

原告は、昭和六三年五月一一日、勝田市コミュニティセンター設置及び管理条例(以下「管理条例」という。)七条に基づき、原告の「環境問題学習会」(以下「本件学習会」という。)の会場(同月二八日午後一時から同五時まで)及び右学習会の打ち合せ(以下本件学習会と合わせて「本件集会」という。)場所(同月二〇日午後六時から同九時まで)として本件センターを使用することの許可を本件センター館長に対し申請し、これに対し同館長は同月一一日、右申請をいずれも許可した。ところが、本件センター館長は、同月二〇日、「貴学習会は申請時の使用目的とは異なる学習会である」という取消理由の記載された書面により、原告に対し、右使用許可をいずれも取り消す旨の通告をした(以下「本件処分」という。)。

(二) 名誉毀損発言

(1) 被告職員である小森稔教育次長は、昭和六三年五月二〇日午前一一時頃、原告代表者に対し、「集会の案内のチラシに『反対』と書いてあるので、公の秩序を乱すおそれがあり、管理条例八条一号に違反する。」と述べた(以下「小森発言」という。)。

(2) 被告職員である村田實教育長は、昭和六三年五月二一日午前一〇時一〇分頃、原告代表者に対し、電話で、「説明会を行っている最中に反対のための集会をやるのは、政治活動であり、公の秩序を乱すおそれがある。」と述べた(以下「村田発言」という。)。

3  本件処分及び小森、村田発言の違法性

(一) 本件処分の違法性

(1) 憲法二一条違反

原告が開こうとした本件集会は、水戸射爆場跡地に建設を予定される石炭火力発電所について、その自然環境と生活環境を守る立場から、右発電所建設が環境に与える影響の問題点を研究調査し、発表するなどして関係住民にこれを伝え広めようとして昭和五五年二月以来運動を進めてきた原告が、昭和六三年四月に発電所建設側である東京電力株式会社と電源開発株式会社(以下「電力会社」という。)の作成提出した環境影響評価準備書を受けて、早急に住民の意見表明を実現させるため、右準備書の内容を分析解明して問題点を拾い上げ、これを検討して、市民に伝達しようとする目的で準備されたものである。このような集会も、憲法二一条一項の表現の自由、集会の自由の行使として憲法上保障され、同条二項により、事前抑制が原則的に禁止されている。従って、その制約の合憲性は極めて厳格に判断されなければならず、その制約が許されるためには、制約目的が合理的であり、かつ、その制約手段が目的達成のために必要最小限であること(「より制限的でない他に選びうる手段」の基準や「明白かつ現在の危険」の基準)が必要である。ところが、本件では、その制約目的は、本件集会が石炭火力発電所建設問題について反対の立場からの学習会であったことが真の理由であって、原告の主催した本件集会の内容そのものを問題としたものであり不当であるうえ、その制約手段としても、集会内での発電所建設賛成派住民とのトラブル回避や本件センターの収容人員オーバーによる混乱回避のためならば、警備の拡充、警察への警備要請、整理券の発行配布、施設内の工夫などのより制限的でない方法により可能であって、使用許可を取り消すのは不相当であり、しかも、本件集会を開催するにあたり、参加市民や関係住民の生命、身体、生活等に対する差し迫った危険は全く存しなかったのであるから、本件処分は、表現の自由、集会の自由を侵害し、事前抑制禁止の原則に違反し、違憲である。

(2) 地方自治法二四四条二項違反

本件センターは、地方自治法二四四条一項の「公の施設」に該当し、同条二項により、被告は正当な理由がない限り、住民がこれを利用することを拒んではならない義務がある。ところが、本件処分は、本件集会が火力発電所建設に反対する目的内容をもつことを唯一の真の理由としてされたもので、右処分には正当な理由がなく、右処分は違法である。

(3) 地方自治法二四四条三項違反

地方自治法二四四条三項により、被告には、住民が本件センターを利用することについて不当な差別的取扱いをしてはならない義務がある。ところが、被告は、電力会社による火力発電所建設促進の立場からの環境影響評価書提出に伴う地元説明会には本件センターの利用を認め、反対の本件集会には反対を理由に本件センターの利用を拒否したのであり、不当な差別的取扱いであるから、本件処分は違法である。

(4) 管理条例違反

管理条例八条三号は、「その他運営管理上支障があると認めたとき」許可を取り消すことができる旨規定するところ、右規定は許可取消しの許否を管理権者の単なる自由裁量に委ねたものと解することはできず、前記の憲法、地方自治法の趣旨に照らして制限的に解釈されるべきである。

(ア) 定員オーバーによる会場の混乱のおそれについて

電力会社による環境影響評価準備書の説明会が勝田市の全世帯に配布された市報により広報されているにもかかわらず定員(八〇名)をオーバーすることはなく、現実の本件学習会に約二〇〇名が参加したという事実は本件処分により新聞報道がされ、本件集会への市民の関心が高まったことによるのであるから、これまでの原告主催の集会人数からしても、単に不特定多数の住民に参加を呼びかけるチラシを配布したことだけで定員オーバーの可能性はなかったのである。

さらに、仮に定員オーバーがあったとしても、せいぜい二〇〇名であり、参加者に整理券を配るなり、到着順に人数を制限するなどの方法によれば十分に混乱を避け得たはずであるから、定員オーバーによる混乱のおそれは管理条例八条三号に該当しない。

(イ) 原告と火力発電所建設賛成派との間の混乱のおそれについて

五月一四日に馬渡集落センターにおいて電力会社により開催された説明会でのトラブルは原告側の人間が会場でまいたチラシにつき、参加者の一人がチラシを取り上げて、こういう立場もあるのだからもっと丁寧に説明したほうがよいと意見を述べ、さらに説明会終了後に市会議員が質問したい人がいるのに質問を打ち切るべきでないとの発言をしたというにとどまる。また、五月一九日に市毛公館において電力会社により開催された説明会でのトラブルは、原告代表者がチラシを配布し、これに対して参加した一老人がチラシを丸めて床に投げつけるという行動をしたにすぎず、これ以外は全く平穏だったのであるから、右のいずれも本件集会において何らかの混乱や異常事態が発生する現実的危険があるとの根拠とすることはできない。

さらに、原告の集会は、学者、研究者の報告を聞き、火力発電所の問題点について学習と認識を深めることを目的としており、その活動は、決して先鋭的、断定的、一方的なものではない。

従って、本件集会において、火力発電所建設賛成派が参加し、集会主催者の原告との間で何らかのトラブルが発生する危険性はなく、仮に、右賛成派が参加した場合でも、それによって直ちに施設管理者において対処しきれないほどの混乱に至る現実的危険性は存しなかったのであるから、原告と火力発電所建設賛成派との間の混乱のおそれというのは本件処分の根拠となり得ない。

(ウ) 使用体系、使用形態の乱れについて

そもそも管理運営上の支障とは、これが集会の自由の制約を適法とするための要件である以上、厳格に解されなければならず、施設管理者が相当な手段を用いても収拾し得ないような物理的混乱が生ずるような具体的危険がある場合を意味するのであり、抽象的な使用形態の乱れはこの要件を充たすものではない。

すなわち、まず、政治的な集会に本件センターを貸与したとしても、利用申込者相互の調整は申し込みを許可する時点で利用の重複を避ければ足り、他の市民の使用が妨げられるわけではないから、本件センターの社会教育施設としての機能を奪うものではない。

また、本件センターを社会教育法上の公民館に準ずる施設として社会教育法二三条一項二号の趣旨がその運用において貫かれるべきであるとの前提に立ったとしても、社会教育法自体社会教育を重視する憲法の精神に照らして解釈されるべきであり、それからすると、特定の政党に対して施設を貸与するような場合は格別、本件のような住民運動グループの主催する学習会が一定の政治的内容を含んでいたとしても、右学習会に施設を貸与することが、社会教育法の前記条項に反すると解することはできないというべきである。

従って、被告主張の使用体系、使用形態の乱れも管理条例八条三号に該当しない。

(エ) 代替施設の提供について

本件集会は、本件処分のためやむを得ず勝田市文化会館で行われたが、右施設は被告により積極的に提供されたものではないし、また会場変更をしなければ対応できない状況ではなかったのであるから、右の点は本件処分を正当化するものではない。

(二) 小森、村田発言の違法性

小森、村田発言は、いずれも本件処分が社会的関心事となり、新聞報道がされることが十分予測される状況のもとでされたものであり、結果的にこれが新聞報道され、本件集会のみならず、原告の活動そのものが公の秩序を乱すものであるかのような印象を与えることになったものであるから、原告の名誉を毀損する行為である。

4  被告の責任

本件センター館長がした本件処分、村田教育長及び小森教育次長の前記各発言は、いずれも被告の職員がその職務上、故意又は過失により行ったものであるから、被告は国家賠償法一条一項により原告の被った損害を賠償すべき責任がある。

5  原告の損害

(一) 本件処分による損害

(1) 財産的損害 一一万五一九〇円

原告は本件センターの使用を取り消されたため、やむを得ず同日時に別の会場を確保しなければならなくなり、以下の支出を余儀なくされて損害を被った

(ア) 新たなチラシの印刷代 七万五〇〇〇円

原告は、昭和六三年五月二二日、印刷所に依頼して、会場変更を内容とするチラシ二万枚を印刷し、同月三〇日に代金を支払った。

(イ) 宣伝カー使用料 一万円

原告は、会場変更を市民に広報するため、市民から宣伝カーを昭和六三年五月二四日から同月二七日までの四日間借り、同月三〇日、一万円の謝礼を支払った。

(ウ) 宣伝カーガソリン代 六三九〇円

原告は、右宣伝カーを昭和六三年五月二四日午後三時ないし同四時三〇分、同月二五日午後二時ないし同四時、同月二六日午前一〇時ないし午後零時、同月二七日午前一〇時ないし午後二時にわたり約四〇〇キロメートル走行させ、ガソリン代六三九〇円を要した。

(エ) 道路使用許可申請書用証紙代二〇〇〇円

原告は、昭和六三年五月二一日、勝田警察署長に、会場変更についての市民向け広報のため、道路使用許可の申請をし、その際、証紙代二〇〇〇円を要した。

(オ) 会場費(本件センター使用料分を控除) 七一〇〇円

原告は、昭和六三年五月二〇日、本件学習会打合せのため、勝田市文化会館三階学習室を二五〇〇円で、同月二八日、本件学習会のため同文化会館小ホールを九五〇〇円(延長料金を含む。)で、それぞれ借用し、同額の損害を被った。

右合計一万二〇〇〇円から本件センター利用料金合計四九〇〇円(五月二〇日分一三〇〇円と五月二八日分三六〇〇円)を控除すると七一〇〇円である。

(カ) 備品使用料 一万四七〇〇円

原告は、勝田市文化会館小ホールの使用に伴い、本件学習会の運営に必要な次の部品を借用し、使用料合計一万四七〇〇円を要した。

① 吊バトン 一〇〇円

② テーブル(七個) 一四〇〇円

③ 調光装置 三〇〇〇円

④ ボーダーライト 一〇〇〇円

⑤ シーリングライト 二〇〇〇円

⑥ 拡声装置(マイク一本付)

三〇〇〇円

⑦ ダイナミックマイク 六〇〇円

⑧ ワイヤレスマイク 二〇〇〇円

⑨ カセット型テープレコーダー

五〇〇円

⑩ マイクロフォンスタンド

一〇〇円

⑪ スライド映写機 五〇〇円

⑫ オーバーヘッドプロジェクター

三〇〇円

⑬ 機材持込料(一キロワットまで)

二〇〇円

(2) 非財産的損害 八〇万円

原告は、本件処分により、電力会社が火力発電所建設に伴う環境影響評価準備書を提出し、各市町村で地元説明会が行われるという重要な時期に本件センターの使用を妨げられ、さらに本件処分後事実上本件センターの利用ができなくなるなど多大の非財産的損害を被り、その損害額は少なくとも八〇万円に相当する。

(二) 小森、村田発言による損害二〇万円

前記のとおり、原告は小森発言及び村田発言により、原告の活動そのものが公の秩序を乱すものであるかのような印象を与えられて名誉を毀損されたが、その損害額は各一〇万円が相当である。

(三) 弁護士費用 五〇万円

原告は、本件訴訟の提起、追行を原告訴訟代理人らに委任し、報酬として五〇万円の支払いを約し、同額の損害を被った。

6  結論

よって、原告は被告に対し、損害金として一六一万五一九〇円及びこれに対する不法行為の後の日で訴状送達の日の翌日である昭和六三年七月一四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告の認否

1  請求原因第1項(二)の事実は認め、同項(一)の事実は知らない。

2  同第2項(一)の事実は認め、同項(二)の事実は否認する。すなわち、小森教育次長は、原告主張の日時頃、原告の会員と思われる者に対し、本件集会について、収容人数を超えて多数人が集まり、反対等を叫んで気勢を挙げたりしていると、群集心理にかられて過激な行動に出たりする者が出ないとは限らないので公序に反する結果ともなり得る旨説明したものであり、また、村田教育長は、原告主張の日時頃に、電話で原告代表者に対し、電力会社の説明会が行われている最中に専ら反対のためにする会合を認めることは、管理者側が反対運動という政治活動に協力しているように誤解されるおそれなしとしない等と述べたものである。

3  同第3項の主張は争う。

4  同第4項の事実は否認する。

5  同第5項の事実は否認する。

6  同第6項は争う。

三  被告の主張

1  本件処分について

(一) 憲法は地方自治を保障しており、地方公共団体の自治権を広く保障しているのであるから、本件センターなどの管理運営についても管理権者に条例をもって広範囲な裁量権を付与することも、上位の法規範に明白に反しない限り許されるというべきところ、管理条例八条三号は、本件センターが社会教育施設の一つとして、政治的に無色中立であるように配慮され、教育委員会の管理するところに属するという見地及び同施設の利用は教育目的の達成という高度の専門的技術的配慮を要するという見地から、専ら教育現場を知る者の手により臨機応変に管理運営されることが望ましいという趣旨に基づき、幅広く当該管理権者に裁量の余地を与える形式をとっているのである。

従って、本件センターの利用の許否は、自由裁量に属するものであり、当該管理権者の裁量権行使に基づく本件処分が、社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限って、当該処分が違法であると判断されるべきものである。

(二) 本件センター館長は、以下の各事由から、管理条例八条三号の「その他運営管理上支障があると認めたとき」に該当すると判断し、本件処分をしたものであり、憲法や地方自治法にも反するものではない。

(1) 定員オーバーによる会場の混乱のおそれ

本件集会のためのチラシの配布地が広範囲(勝田市内のみでなく、東海村、日立市、那珂湊市、常陸太田市など)であり、相当多数の参加者が予想されることから、八〇名という会場の収容能力をはるかに超えることが予想され、駐車スペースもなく、それらが原因して万が一にも混乱の生じた場合には、配置職員数(男子職員一名)、他の三組の集会予定などからしても正常な状態への回復は不能又は著しく困難であると考えられた。そして、これについては集会の規模を縮小するなどの規制手段も考えられるが、原告は右のような規制手段をとるように勧告したとしても聞き入れて貰えるような性質の集団ではないから、本件処分によるほかないと判断した次第である。

(2) 原告と火力発電所建設賛成派との間の混乱のおそれ

電力会社が馬渡集落センターで行った説明会では、原告側の一人と思われるものが、時間が足りないと主催者側に詰め寄るなどの常軌を逸する振舞いをし、参加者の一人が仲裁に入ったものの、「遅く来て時間が足りないとはおかしい。」という原告側の者への反発が出されたうえ、市毛公民館での五月一九日の説明会では、原告代表者がチラシを配布したところ、参加者が、それを丸めて投げつけ、原告代表者と口論するなどという事件が起きた。

さらに原告は、市民の不安をかりたてるような内容ばかりのチラシを市民に広く配布するなど、その行動が過激的である。

(3) 使用体系、使用形態の乱れ

本件集会は、一定の党派的見地に立った政治的活動であり、日常本件センターで行われている他の中立、無色な事業と著しくその使用形態において異なっており、同センターでは主として周辺住民を対象とした小規模で穏やかな学習会等を予定している被告側の管理運営方針になじまないものであり、本件集会に使用を認めることは、結局管理ないし使用方法に極めて悪い影響を及ぼし、管理運営上に重大な障害となる。

また、市民の公正な判断を求めるための資料の提供をすべく位置づけられ、実施されている環境影響評価準備書の説明会の開催中に、反対のみを訴える本件集会が、本件センターで実施されると、その管理権者であり、政治的に無色中立であるべき教育委員会が、本件集会に加担、援助しているかに誤解されて、市民の公正な判断を惑わすおそれがある。

(4) 代替施設の提供

被告は、本件集会のために、その設置目的や規模、配置職員等で最適の文化会館を原告に提供している。

2  小森、村田発言について

原告は、新聞報道等により小森、村田発言が公にされ精神的苦痛を被った旨主張するが、被告側はできるだけ騒ぎを大きくせずに、平和的に解決しようとしたのに、原告側が広言したことにより、あるいは新聞記者の取材に応じたために公知となったのであって、原告に帰責性があるというべきであり、市民の要求に素直に応じて自己の考えているところを相手方に表明したことに対し、被告が損害賠償する筋合いのものではない。

四  被告の主張に対する原告の認否

いずれも争う。

第三  当事者の提出、援用した証拠<省略>

理由

一当事者

請求原因第1項(二)の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、同項(一)の事実が認められる。

二本件センターの使用許可取消しと名誉毀損発言

請求原因第2項(一)の事実は当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<証拠>によれば、以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告は、前記の目的をもって、当初約七〇名の会員で設立されたところ、公民館やコミュニティセンター、あるいは文化会館を会場として年に一回定期総会を開くほか、年に数回の割合で、火力発電所建設をめぐる環境問題を中心に、学者、専門家の講演会や学習会を行ってきた。原告は、参加を希望すれば誰でも入会することができ、教師、主婦、保母、市職員など種々の職業の人が会員として参加している。これまでの集会では、参加を呼びかけるチラシ三、四〇〇〇枚程度を配布したが、参加者はほとんど五〇名前後であり、何らの混乱もなく、平穏に行われていた。

2  電力会社は、昭和六三年四月二二日、茨城県に対し、水戸射爆場跡地に建設予定の石炭火力発電所の環境影響評価準備書を提出し、同準備書は同月二五日から同年五月二四日まで公告縦覧され、同年五月一三日から同月二〇日までの間、勝田市内一〇か所(本件センターを含む。)において、電力会社による地元説明会が開催された。

3  原告は、右準備書の内容について、これまでの研究結果を踏まえ、あるいは専門家による解析を行い、その問題点を学習するために本件学習会を計画した。なお、当時の原告の会員数は約九〇名であった。

4  原告は、当初本件集会の会場として、勝田市文化会館(以下「文化会館」という。)を予定していたが、昭和六三年五月一〇日前後頃、確認したところ、これまで参加人数の関係から原告の学習会等で利用していた大練習室及び小練習室(両室あわせて六三名収容)あるいは展示室(一二〇名収容)が、本件集会当日既に他の利用申込みがあって利用できないことが判明した。

5  そこで、原告代表者は、文化会館に近い適当な会場として本件センターを選択し、昭和六三年五月一一日、本件センターに赴いて、同月二八日開催予定の本件学習会用として、「使用日昭和六三年五月二八日、使用時間午後一時から午後五時まで、使用室名集会室、使用目的環境問題学習会、使用人員八〇名」等の記載のある使用許可申請書<証拠>及び同月二〇日開催予定の本件学習会の打合せ用として、「使用日昭和六三年五月二〇日、使用時間午後六時から午後九時まで、使用室名研修室、使用目的環境問題学習会打合せ、使用人員一〇名」等の記載のある使用許可申請書<証拠>を提出して両日の本件センターの使用許可を申請した。

これに対し、本件センター館長から日常の使用許可権限を委ねられていた主幹(常勤職員)の小滝仁は、口頭で使用目的、原告の構成員等について尋ねたところ、原告代表者から「専門的な講師を招いて勉強する会である。構成員には市役所の職員もいる。」旨の回答が得られたので、特に問題はないと判断し、即時に、右申請どおりの内容の五月二〇日<証拠>及び五月二八日<証拠>の本件センターの各使用許可書を原告代表者に交付し、使用料(五月二〇日分一三〇〇円、五月二八日分三六〇〇円)を徴収した。

なお、本件センターは、五月二〇日には原告と同時間帯に二団体、同月二八日には三団体の利用が予定されていた。

6  本件センターは、昭和六一年一一月九日に地域住民の学習の場、いこいの場として開館した三階建ての公の施設であり、館長は勝田市内の五つの公民館及び大島コミュニティセンターの館長を兼ねており、建設補助金の関係から公民館の名称はつけられていないが、公民館と同様の方針により教育委員会により運営されている。本件センターには使用できる室が一〇室あるが、原告が使用許可を受けた二階集会室が最も大きく、収容人員は八〇名であり駐車場も乗用車四四台分しかなく、常勤職員一名、非常勤職員三名がいる。

一方、文化会開館は、昭和五九年一〇月二五日完成した公の施設であり、勝田市文化振興公社に管理運営を委託している。文化会館には、大ホール(一三五〇名収容)、小ホール(三九九名収容)のほか、約一〇室の小規模の室があり、駐車場は、乗用車三〇〇台分あり、常勤職員一二名、非常勤職員一名がいる。

7  原告は、本件集会を知らせるため、チラシを配布することとし、表面に「石炭火力発電所の建設に反対しましょう」との見出しと発電所が建設された場合に原告の予想する公害問題を記載し、裏面には、「環境影響評価準備書説明会に参加しよう」との見出しと電力会社による地元説明会の日程及び原告の本件集会の日程(本件集会については「どちらも会員の方は御参加下さい。」と付記)の記載されたチラシ<証拠>約六、七〇〇〇枚を勝田市内(電力会社よる地元説明会会場を含む。)を中心に、東海村や那珂湊市周辺にも配布した。

8  本件センターの小滝主幹は、昭和六三年五月一七日に本件センターで開催された電力会社による地元説明会終了後、原告の右チラシ<証拠>を発見し、同日夜館長にその旨報告し、翌一八日午前、館長と小滝主幹、社会教育課長、同係長等で原告への使用許可につき協議した。その内容は、原告の申請書には、火力発電所建設に反対する趣旨が記載されていないにもかかわらず、右チラシの内容からすれば、本件学習会の内容は反対の趣旨のものであるおそれがあること、また、右チラシが不特定多数に配布されていれば、八〇名という本件センターの収容能力等にも問題があること、同月一四日に馬渡集落センターでの地元説明会で原告からまかれたチラシに対しなぜこういうチラシをまくのかという口論があった旨報告を受けていたことなどから、原告代表者宅を訪ねて本件学習会の内容等につき確認することにしようというものであった。

9  本件センター館長と小滝主幹は、昭和六三年五月一九日午前九時頃、原告代表者宅を訪れ、本件学習会が火力発電所建設反対のための集会なのか否か、どうして文化会館ではなく、本件センターを利用するのか、本件センターの使用許可を取り消したらどうするか等につき尋ねたところ、反対のための反対ではないが、結果的には反対の趣旨の集会であり、取り消したら表現の自由の問題で大変なことになるが、会場の都合があるので早く連絡してほしい旨の回答が得られ、本件センター館長らはさらに協議する旨告げて帰った。

10  本件センター館長、小滝主幹、小森教育次長、社会教育課長及び同係長(村田教育長は出張で不在)は、昭和六三年五月一九日午後二時頃から教育委員会で内部協議したところ、申請書では本件センター周辺の住民を対象とする単なる学習会という内容であったのが、チラシにより、発電所建設反対を掲げた政治的活動と判明し、社会教育施設としての本件センターの利用は問題があるうえ、チラシにより全市的な呼びかけをしているので相当数の市民が集まり、本件センターの収容人員等から収拾のつかない混乱が生ずるおそれがあること、馬渡集落センターにおける地元説明会において、原告会員の過激な言動によりいさかいがあったと報告されているので、今回もいさかいがある危険性があること等の判断から、管理条例八条一号(公の秩序又は善良な風俗を乱すおそれがあると認めたとき)及び三号(その他運営管理上支障があると認めたとき)に該当するとして、原告に対する同月二〇日及び同月二八日の本件センターの使用許可を取り消すことに内定し、小滝主幹が同月一九日午後六時頃、その旨原告代表者に電話連絡した。しかし、右決定にあたり、本件センター館長らは、過去の原告の集会の人数やチラシがどの説明会でどれくらい配布されたか、原告が実際に集めようとしている人数、馬渡集落センターでの混乱の詳しい内容等について調査することはなかった。

11  原告代表者は、本件集会の期日が迫っていたことから、昭和六三年五月二〇日午前、文化会館に赴き、次善の策として、同月二八日の本件学習会のため空いていた小ホールの使用許可を受け、さらに、同月二〇日の打合せのためには、「たんぽぽ保育園」を利用することとした。

12  小森教育次長は、昭和六三年五月二〇日午前、前日市毛公民館で開催された地元説明会で、始まる前に原告代表者からチラシを配られた参加者が、「こういうところでこんなチラシをまいていいのか。」と言って、原告代表者にチラシを丸めて投げつけた旨の報告を受けた。小森教育次長は、その後、請求原因第2項(一)記載のとおりの本件処分の書面を決裁した。

本件センター館長は、同月二〇日午前一〇時頃、本件センターで、右書面<証拠>を原告代表者に交付したが、その際、小滝主幹は、原告代表者に文化会館の部屋が空いている旨知らせた。

そこで、原告代表者は、再度文化会館に赴き、同日の打合せの会場として、小会議室の使用許可を受けた。

13  原告代表者らは、本件処分の書面には、使用許可取消しの理由として申請時の使用目的と異なる旨しか記載されていないため、その詳細を確認する目的で、昭和六三年五月二〇日午前一一時頃、約八名で教育委員会を訪れたが、その際、朝日、読売、新いばらきの各新聞記者も同行した。

14  小森教育次長は、同日、教育長室で、原告代表者らと面談したが、その際、取消理由を尋ねられて、発電所建設反対を掲げて学習会をすると、反対者、賛成者の間で争いごとが起こるおそれがあり、管理条例八条一号の「公の秩序を乱すおそれがあるとき」に該当するという趣旨の回答をし、原告代表者らとの間で口論となった。結局、教育長が出張中とのことで、教育長が帰り次第再度取消理由等を回答することとなって面談を終えた。

15  昭和六三年五月二一日、同月一九日からの出張から帰った村田教育長は、小森教育次長からこれまでの経過についての報告を受け、同月二一日午前一〇時過ぎ頃、原告代表者に電話で、「取消しを撤回するつもりはない。取消理由は管理条例八条一号の『公の秩序を乱すおそれがあるとき』である。電力会社が地元説明会を開いている最中であるため、反対する学習会は政治活動となるのではないか。」という趣旨の話をした。

16  原告は、本件集会場の変更を知らせるため、昭和六三年五月二二日、チラシ<証拠>二万枚を勝田市内全域及び東海村、那珂湊市、日立市、常陸太田市付近に配布し、あわせて同月二四日から同月二七日まで宣伝カーを利用して会場変更を広報した。

17  原告は、昭和六三年五月二〇日及び同月二八日に、文化会館で本件集会を開催し、同月二八日には約二〇〇名が参加したが、いずれも何の混乱もなく、平穏に終了した。

18  昭和六三年五月一四日、馬渡集落センターにおける地元説明会での混乱とされるものの実態は、会場外でチラシをまいていた原告会員が、市の職員から何をまいているのか聞かれたこと、説明会中に、参加者の元市議会副議長が「私は賛成でも反対でもないが、この反対のビラを見ると、もっと事業者は丁寧に答弁すべきではないか。」という趣旨の発言をしたこと、説明会終了後、共産党の市会議員(原告会員ではない。)が、「質問時間をもっと長くしてほしい。」旨の発言をしたこと等の事実があったにすぎず、他に特に混乱はなかった。

また、同月一九日、市毛公民館における地元説明会での混乱とされるものの実態は、会場内で原告代表者がチラシを配り終えたところ、七〇歳過ぎの老人が原告代表者の座っている席へ来て「なんでこんなものをまくのか。」と言ってチラシを丸めて原告代表者に投げつけ、その後、会場内でチラシをまかないで下さいという市の職員の注意があったというだけのことにすぎず、他に特に混乱はなかった。

三本件処分及び小森、村田発言の違法性

1  本件処分の違法性について

被告の本件処分が管理条例八条三号に適合するかどうかにつき判断する。

(一) 管理条例八条三号は「その他運営管理上支障があると認めたとき」を使用許可の取消事由の一つとして規定するところ、この意味は、憲法二一条ないし地方自治法二四四条の趣旨と合わせて考えられるべきである。すなわち、憲法二一条の保障する集会の自由、表現の自由は、民主主義社会存立の基盤をなす最も重要な基本的人権の一つであって、この自由は最大限尊重されなければならないものであり、かつ、その趣旨を受ける地方自治法二四四条も、普通地方公共団体は正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならない旨規定しているのである。

従って、管理条例の右規定は、管理権者による自由な主観的あるいは政策的な判断(いわゆる自由裁量)を許すものではなく、客観的にみて管理運営上の支障を生じる蓋然性が合理的に認められる場合にのみ使用許可の取消しができるものと解するのが相当である。

(二)  そこで、被告の主張する各事由が管理条例八条三号に該当するか否かにつき検討する。

(1) 定員オーバーによる会場の混乱のおそれについて

前記認定のとおり、被告側は原告のチラシが不特定多数人に配布されたことのみを根拠として定員オーバーの可能性を考えたのであり、過去の原告の集会の人数とか、チラシがどの説明会でどの位配布されたかについても調査していないうえ、実際に原告が集めようとした人数について原告側に尋ねてさえもいないのであって、前記の点だけから定数オーバーの可能性があると判断するということは根拠不十分といわなければならない。また、客観的にも、前記認定のとおり、原告の学習会への参加者はチラシ三、四〇〇〇枚を配布した場合でも五〇名前後であり、本件において、参加を呼びかけるチラシを六、七〇〇〇枚、全市的に配布したことを考慮しても、八〇名という会場の収容能力をはるかに超える参加者が集まる蓋然性は低かったものというべきである。なお、文化会館で開催された本件学習会では、前記のとおり、約二〇〇名の参加者があったのであるが、これは本件処分が新聞等で大きく報道され、さらに、原告もより一層広範囲にチラシを配布したことが強く影響しているものと推認され、右事実をもって、本件学習会に八〇名をはるかに超える参加者がある蓋然性があったと判断することはできない。

さらに、仮に定数超過の蓋然性が認められたとしても、参加者に整理券を配布するとか、到着順に人数制限するとかの方法をとれば混乱を防ぐことは可能であり、そのようなより制限的でない他の手段をとることなく、直ちに使用許可を取り消すほどの管理運営上の支障があるとは認められない。

(2) 原告と火力発電所建設賛成派との間の混乱のおそれについて

被告が混乱のおそれの根拠とする五月一四日の馬渡集落センターでの説明会におけるトラブル及び同月一九日の市毛公民館でのトラブルの内容は、いずれも、前記認定のとおり、混乱と称するほどのものではなく、しかもこれらは電力会社による地元説明会で生じたものであり、これらにより本件集会において何らかの混乱や異常事態が発生する蓋然性があったとすることはできないのは明らかである。

また、前記認定のとおり、原告は、多様な住民を会員とする自発的な住民運動のグループというべきであり、その存在自体から混乱を生むような過激な団体とは到底認めることはできない。

従って、施設管理者において対処しきれないような混乱の生じる蓋然性は存しなかったというべきである。

(3) 使用体系、使用形態の乱れについて

被告は、本件センターを社会教育法上の公民館に準ずる施設としてとらえ、本件集会のような政治的活動に貸与することはできない旨主張する。

右のような事情が、「運営管理上の支障」にあたるか否かはひとまず措き、社会教育法二三条一項二号の趣旨についてみるに、同法は、公民館自体が、その公共性、中立性から「特定の政党の利害に関する事業を行ない、又は公私の選挙に関し、特定の候補者を支持すること」を禁止しているにすぎず、民主主義社会においては社会教育が極めて重要であることに鑑みると、右の「特定の政党の利害に関する」との文言を政治的活動一般に拡張して解釈することは到底許されず、むしろ、その意義は、限定的に、特定政党、ないしその反対政党自体、又はそれらの一組織あるいはそれらに密接な関連のある者ないし団体として、政党の政策目的を実現あるいは阻止するために統治機構の獲得維持を志向し、その一環としてされるものと解すべきであり、これと同様の文言の「勝田市コミュニティセンター設置及び管理条例施行規則」二条二号も右と同様に解するべきである。

そうすると、前記のとおり、原告は、統治機構の獲得志向のある団体や特定政党と密接な関係のある団体ではなく、自発的な住民運動のグループにすぎないのであるから、右を本件処分の理由とすることはできないというべきである。

また、被告は、環境影響評価準備書の説明会の開催中に、本件センターを原告の本件学習会のような発電所建設反対を訴える集会に貸すことが市民の公正な判断を惑わすおそれがある旨主張するが、市が反対集会を主催するならともかく、単に原告のような自発的な住民運動のグループに本件センターを貸すこと自体でそのようなおそれがあるとは到底認めることはできない。

(4) 代替施設の提供について

被告は、本件集会のために本件センターの代わりに文化会館を提供した旨主張するが、原告が本件集会を文化会館で行うに至った経緯は前記認定のとおりであり、被告が積極的に原告が文化会館を使用することにつき便宜をはかったとは到底認められないうえ(単に当日文化会館に空部屋があることを確認して原告代表者に知らせ、その利用申込みを拒絶しなかったにすぎない。)、前記で検討したとおり、原告が本件センターを利用することにつき何らの支障がないにもかかわらず、本件集会期日が迫った時点で、利用料金等も異なる文化会館に変更されることにより、後記のとおり、原告は財産的損害を被っているのであって、右の点も本件処分を正当化する理由とはなり得ない。

(5) 以上によれば、本件センター館長が管理条例八条三号により本件センターの使用許可を取り消したことは、条例の適用を誤まり、地方自治法二四四条二項にいう正当な理由なくして公の施設の利用を拒んだものであって、違法な処分であるといわなければならない。

2 小森、村田発言の違法性について

小森教育次長及び村田教育長は、それぞれ、本件処分をめぐる原告との交渉中に前記認定の発言をしたものであるが、右各発言はいずれも原告の求めに応じ、本件処分の理由を開示したにすぎず、原告自体が公の秩序を乱す団体であるという趣旨の発言をしたものではないから、原告の社会的評価を低下させるおそれはなく、名誉毀損は成立しないものというべきである。

従って、小森、村田発言の違法性を前提とする請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

四被告の責任

以上認定した事実によれば、本件センター館長は、本件センターの使用許可を取り消すについて何ら合理的理由がないことをしりつつ、故意に原告の本件集会を妨害抑圧する意図で本件処分をしたとはいえないけれども、本件センター管理運営を所管する公務員として当然に要求される判断を誤まり、違法な処分に及んだ点において、少なくとも過失があるといわざるを得ない。

従って、被告は国家賠償法一条一項に基づき、本件センター館長の職務上の違法行為である本件処分により与えた損害を賠償する責任がある。

五原告の損害

1  財産的損害

<証拠>によれば、原告は本件処分のため、やむを得ず文化会館で本件集会を開催したことにより、請求原因第5項(一)(1)(イ)ないし(エ)、(カ)のうち⑥を除く費用を出捐したことが認められ(<証拠>によれば、本件センターを利用した場合でもマイクは必要であることが認められ、右賃借料を本件処分による損害ということはできない。)、右合計三万〇〇九〇円の損害を被ったことが認められる。

原告は、会場変更のために新たなチラシ二万枚を印刷し、右印刷費用相当の損害を被った旨主張し、<証拠>によれば、原告は右費用七万五〇〇〇円を出捐したことが認められるが、前記認定事実によれば、原告は当初本件集会勧誘のチラシを多くても七〇〇〇枚配布したにすぎないというのであるから、右枚数を超えるチラシは直ちに本件処分と相当因果関係のある損害と認めることはできない。従って、新たなチラシの印刷代相当の損害としては二万六二五〇円(75,000×7,000/20,000=26,250)となる。

また、<証拠>によれば、原告は、本件集会のため、文化会館使用料として、合計一万二〇〇〇円(五月二〇日分二五〇〇円、五月二八日分九五〇〇円)を出捐したことが認められ、右から前記認定にかかる本件センターの利用料金合計四九〇〇円(五月二〇日分一三〇〇円、五月二八日分三六〇〇円)を控除した七一〇〇円が原告の損害となる。

従って、原告の本件処分による財産的損害は、合計六万三四四〇円となる。

2  非財産的損害

原告は、前記のとおりいわゆる権利能力なき社団であるところ、このような社団も、個々の構成員を離れて別個の社会的存在を有して活動するのであるから、その社会において有する地位すなわち品格、名声、信用等を有するのであり、従って右品格、名声、信用等が侵害され、社会的評価が低下、減退させられるときは、自然人、法人と同様に非財産的損害を被ることになると解すべきである。そして本件についてみるに、被告の違法な本件処分により、原告はその社会的評価を下げたものと考えられ、原告の社会的地位、活動、本件処分の態様とその理由等の諸般の事情に照らすと、その損害額は二〇万円と評価するのが相当である。

3  弁護士費用

<証拠>によれば、原告は本件訴訟代理人である弁護士に本件訴訟の提起、追行を委任し、着手金、報酬として五〇万円を支払う契約を締結していることが認められるが、本件訴訟における認容額、事案の難易等本訴に現れた一切の事情を考慮すると、結局本件不法行為により被告に負担させるべき弁護士費用は、五万円とするのが相当である。

六結論

以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し三一万三四四〇円及びこれに対する不法行為の後の日で訴状送達の日の翌日である昭和六三年七月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官矢崎秀一 裁判官山﨑まさよ 裁判官神山隆一)

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